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時限爆弾みたいな病気 ~腹部大動脈瘤~

外科

辻 義彦

2024/04/06
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最近日本で増えてきている病気の一つに「大動脈瘤」があります。これは日本人の食生活などがだんだん欧米化し、動脈硬化性疾患が増えてきたのが一因とされています。 
 そもそも大動脈というのは、動脈血液を全身に運ぶ主要幹線路で、そのため「名神高速道路や東名高速道路は日本の大動脈である」といった比喩にも使われています。実際には、心臓から出て頭や手足、内臓などへ向かう枝を次々に出しながら、胸部から腹部にいたるまで背骨のすぐ前方を走行しています。この大動脈の壁が動脈硬化によって弱くなり、あたかも風船が膨らむかのように拡張したものを大動脈瘤と呼びます。ちなみに「動脈硬化」という言葉を聞くとあたかも動脈が土管のように硬くなるような印象がありますが、実際にはカルシウムなどが沈着して硬くなる部分もある反面、粥腫や潰瘍ができて動脈壁が弱くなり膨れてしまう部分も出てくるのです。
 正常の大動脈は直径2.5cm~3.5cm程度なのですが、直径が4~4.5cmを越えてくるようになると大動脈瘤と呼ばれます。胸部にできるものを胸部大動脈瘤、腹部にできるものを腹部大動脈瘤と呼び、両方同時にできる場合もあります。
 今回はこのうち、腹部大動脈瘤について説明してゆきます。

腹部大動脈瘤の症状

 腹部大動脈瘤は、直径10cm近くにまで大きくなろうと、ドクドクと拍動する腫瘤を臍のあたりに触れるほかは無症状であることがほとんどです。太った人であれば拍動する腫瘤が触れない場合もよくあります。
 ところが、腹部大動脈瘤が破れかかると強い腹痛や腰痛が出現するようになり、いったん破れてしまえば大出血をきたし、血圧は低下し意識も低下します。腹部大動脈瘤が破れてから救急車を呼んでも、病院までたどりつける人は半数前後、たとえ病院までたどりついても緊急手術を受けて助かる人はそのまた6~7割程度しかいないとされています。この腹部大動脈瘤の破裂は何の前触れもなく突然やってきます。

腹部大動脈瘤に対する検査

 腹部エコー検査や腹部CT検査などを受ければ一目瞭然でわかります。破裂する前の腹部大動脈瘤は痛みなどの自覚症状がほとんどありませんので、「胃炎や腸炎などで近くの医院を受診し、たまたま腹部の触診で拍動する腫瘤を発見された」とか、「肝臓や腎臓などの検査、整形外科での腰痛の検査などで偶然に腹部大動脈瘤が発見された」、というのがほとんどなのです。実際にどのような治療を選択するかを判断するためには、造影剤を点滴しながらCT検査を行う「CTアンギオ」や「3D-CT」、MRI検査を行う「MRアンギオ」などが行われます。

腹部大動脈瘤の治療方法と治療成績

  腹部大動脈瘤は自然に、あるいは薬で小さくなることはまずありません。血圧が高いと破裂しやすくなりますので血圧のコントロールは大切ですが、これとて破裂の危険性を減らすに過ぎず、やはり外科的な治療が必要となります。一般に、直径4cm程度までの腹部大動脈瘤であれば破裂の危険性は少ないのでそのまま経過観察しますが、直径が4.5~5cm(正常な大動脈直径の約2倍)を超えるようになると手術が勧められます。
 手術としては、人工血管置換術とステントグラフト留置術といった二通りの治療法があります。人工血管置換術というのは全身麻酔下に開腹して動脈瘤を切除し人工血管を使ってつなぎなおす方法で、手術としても歴史が古く、確実な治療法です。一方、ステントグラフト留置術というのは、全身麻酔下に足の付け根の大腿動脈よりカテーテルを挿入し、ステントグラフトと呼ばれる金属ステント付き人工血管を動脈瘤の部分に留置、これで橋渡しをすることにより動脈瘤に血圧がかからないようにして破裂を予防するという血管内治療法です。ステントグラフト留置術の方が体に負担の少ない治療法ですが、動脈瘤の形状により適応がある程度限られており、ステントグラフトがずれたり(migration)、血液が漏れたり(endleak)する合併症があります。
 腹部大動脈瘤を持っておられる方というのは、動脈硬化が進んだ高齢な患者さんが多く、同じく動脈硬化によって発病するとされている心筋梗塞や脳梗塞の危険性もあわせ持っておられることがほとんどです。従って手術の危険性も高いと思われるのですが、日本の各施設での手術成績を見てみると、破裂する前に腹部大動脈瘤の手術ができた場合の手術死亡率は1~3% 程度と極めて良好であることが報告されています。大動脈の手術と聞けば、「大変な手術だ」と思われるかもしれませんが、もはや腹部大動脈瘤の待期手術は、胃切除術や腸切除術といった腹部の一般手術と危険性においてもほとんど差がなくなってきています。
 当院でも画像検査や外科手術をおこなっていますので、外科または血管外科外来まで遠慮なくお越しください。

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