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下肢静脈瘤は、下肢の皮膚表面にみられる青色や紫色の静脈の怒張が典型的で、とくに立位(立ったり)や下肢を下垂する(椅子に座るなど、足を下げている)と増強します。その他の症状として、足の重い感じ、かゆみ、痛み、熱感、こむらがえり、などがみられることがあり、これらの症状があれば手術適応があります。
治療法は患者さまの症状や静脈瘤の重症度に応じて決定します。下肢静脈瘤で悩んでおられる方は、ご遠慮なく当院外科あるいは血管外科外来にお越しください。
目次
下肢静脈について
下肢静脈は足先から心臓へ向かって静脈血をもどす血管です。静脈は動脈と違って血圧が低いため、血圧だけで心臓へ十分に戻ることができません。血液が心臓へ戻るためには、腓腹部(ふくらはぎ)の筋肉収縮がポンプの役割をします。だから「ふくらはぎは第二の心臓」と言われるのです。また重力にさからって心臓へ血液を戻すのを助けるため、静脈には血液の逆流防止弁がたくさんついています。
下肢の静脈には大きく分けて、
1)伏在静脈(大伏在静脈と小伏在静脈):皮膚近くの静脈血をもどす静脈で、体表から見える
2)深部静脈:下肢静脈の本流で、体表からは見えない
3)伏在・深部静脈間の交通枝
があります。深部静脈がもっとも重要な静脈であり、伏在静脈は摘除(摘出して取り除く)しても詰まっても大きな問題にならないことがほとんどです。
下肢静脈瘤ができる主な原因
立ち仕事や妊娠・出産などにより血液が下肢から心臓へ戻りにくくなり、下肢の静脈圧が上昇します
↓
静脈の逆流防止弁が壊れてしまいます
↓
弁が壊れると血液の逆流が起こり、さらに下肢のうっ血状態がひどくなります
↓
静脈に圧がかかり、ふくれて静脈瘤を形成します
下肢静脈瘤ができやすい人
1)長時間の立ち仕事
美容師・理容師・調理師・販売員・教師など、同じ姿勢でずっと立つ仕事に従事している方は下肢静脈瘤が発症しやすいとされています。
2)妊娠・出産
妊娠中や出産後に下肢静脈瘤ができる女性は少なくありません。子宮が大きくなり、骨盤内で静脈を圧迫して静脈血の心臓への戻りが妨げられます。妊娠・出産の回数が増えるほど下肢静脈瘤ができる割合が高くなるとされています。
3)遺伝的体質
下肢静脈瘤の種類
1)伏在静脈瘤
足の付け根から太ももやふくらはぎの内側、ひざの裏に見られる伏在静脈(大伏在静脈、小伏在静脈)と呼ばれる太い血管がモコモコと蛇行し浮き出た静脈瘤です。
スカートがはけずに悩んでいる女性も多くおられます。 下肢静脈瘤の中で最も多いタイプです
2)側枝静脈瘤
伏在静脈よりやや細い分枝(脇道)の血管が浮き出た静脈瘤です。
血管のコブは比較的小さいことが多いのですが、場所によっては大きく目立つこともあります。
3)網目状静脈瘤
読んで字のごとく細い血管が網目状になった静脈瘤です。
直径2~3ミリの静脈が拡張し、皮膚の上からはっきり見える状態になったものです。とくにひざ裏などに出やすい性質があります。
4)クモの巣状静脈瘤
赤紫色の細い血管がまるでクモの巣のように見えることからこの名が付きました。
皮下直径1ミリ以下のごく細い静脈に起こる静脈瘤です。
下肢静脈瘤の症状
比較的軽い症状
- 下肢静脈のモコモコとした怒張(血管などが、はちきれるようにふくれあがること)
- 下肢静脈が網の目状に透けて見える
- かゆみ、足の腫れ、こむらがえり
絶対に治療が必要な症状
- 静脈瘤部の発赤、熱感、疼痛(痛み)、しこり(血栓性静脈炎の併発)
- 皮膚色素沈着(黒ずみ)
- うっ滞性皮膚潰瘍
下肢静脈瘤の診断
1)両下肢全体の視診と触診
2)エコー(超音波)検査
静脈の逆流部位や不全交通枝の有無、静脈内血栓の有無などを評価します。
簡便で痛みのない検査です。
3)CTやMRI検査(ときに造影剤必要)
撮影されたデータを3次元画像に再構成するものです。
下肢静脈瘤の治療方法
1)弾性ストッキングによる圧迫療法
医療用のものは、ドラッグストアに売っているものよりも圧迫力が強いです。ストッキング・パンストタイプ・ハイソックスなどの種類があり、圧迫力も弱圧・中圧・強圧とわかれています。
静脈瘤そのものが治るわけではありませんが、むくみがとれやすく、また静脈瘤の増大や増悪の予防になります。当科では外来にてサイズ合わせをさせていただき、当院前の調剤薬局でもお求めいただけます。3000円~5000円前後の自己負担になります。ストッキングの平均的な寿命は半年位です。
2)硬化療法
静脈瘤に細い針を刺して硬化剤を注射し、静脈瘤をつぶしてしまう方法です。
包帯による圧迫は必要ですが、すぐに歩行できますので、入院は不要です。
しばらくは治療部に皮下出血やしこりが残りますが、1~2ヵ月後にはほとんど自然に吸収され、見た目上もすっきりしていきます。ただ5年~10年ほどで再発する症例が多く、最近は硬化療法による単独治療は少なくなってきています。
3)手術療法
手術には静脈抜去術(ストリッピング)や静脈瘤摘除術があり、静脈瘤そのものを摘除してしまうので最も確実な治療法で、どんなひどい静脈瘤にも対応可能です。
当院では全身麻酔で行っており、1泊2日以上の入院になります。
静脈瘤を抜去・摘除するために1~2㎝長のきずが数か所から10数か所必要ですが、手術後3カ月も過ぎると、きずも目立たなくなります。
4)血管内焼灼術(経カテーテル的レーザー、ラジオ波焼灼術)
皮膚を切らずにカテーテルを用いてレーザーやラジオ波で静脈の内側から焼いてつぶしてしまう方法で、保険適応となっています。
当院では全身麻酔で行っており、1泊2日入院または日帰り入院になります。
比較的まっすぐな静脈に好適応であり大腿部(ふともも)で良く用いられますが、下腿部(ふくらはぎ)では静脈に伴走する神経に熱損傷をきたす危険があるため、適応は慎重にすべきとされてます。
5)血管内塞栓術(経カテーテル的塞栓術)
血管内焼灼術と同じく血管内治療と呼ばれるもので、カテーテル治療で静脈の中に接着剤を注入して血管をつぶしてしまう方法で、保険適応となっています。
当院では全身麻酔で行っており、1泊2日入院または日帰り入院になります。
焼灼術と異なり熱損傷をきたさないことが利点ですが、静脈塞栓症を発症する危険性がやや高率と報告されています。
静脈瘤のある方の日常生活の注意
1)下肢に血液がたまらないように、長時間の連続した立ち仕事はさけましょう。
立ち仕事中は1時間の仕事に5~10分間は、あしを高くあげて休息しましょう。
2)夜寝るときには、クッションやふとんなどを使用して下肢を高くして休むと腫れが軽減します。
3)立ち仕事や外出、長時間の座位(飛行機やバス旅行など)のときには、弾性ストッキングをはいてください。
4)下肢の清潔を保ちましょう。