医療法人社団 慈恵会 新須磨病院

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2023年冬号

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血管内治療特集

 血管内治療特集1 

下肢静脈瘤とは

足の血管が浮いて気になっていませんか?

太ももやふくらはぎに血管が浮き出てきたら
下肢静脈瘤です

 下肢静脈瘤とは、立った時に太もも(大腿部)の内側、膝の内側や裏側、ふくらはぎ(下腿)の内側や裏側などに血管(静脈)が浮き出てくる病気のことを言います。静脈というのは手足の先から心臓へ向かって血液を送る血管ですが、動脈と違って血圧が低いにもかかわらず重力に逆らって心臓へ血液を戻さなければなりません。血液が逆流しないように静脈には数ケ所に逆流防止弁が付いているのですが、この弁が壊れてしまうと血液が逆流し、静脈圧が上昇することにより下肢静脈瘤ができてしまいます。
 この病気は長時間の立ち仕事をされている方に多く、美容師や販売員、教師、寿司職人やパン職人のような調理師の方は注意が必要です。また、妊娠時には子宮が大きくなり骨盤内で静脈を圧迫するため、下肢静脈の心臓への戻りが妨げられます。そのため、女性患者さんの多くが妊娠を契機に発症されます。また遺伝的体質で下肢静脈瘤になりやすい方もおられます。
 下肢静脈瘤にはさまざまな症状があるのですが、比較的軽い症状としては(1)下肢皮下静脈がふくれたり、網の目状に透けて見える(2)かゆみや足の腫れ、こむらがえりなどがあり、これらの症状の場合は経過観察をお勧めすることがありますし、ある程度目立つ静脈瘤であっても、手術はせずに弾性ストッキングの着用などによる圧迫療法をお勧めすることもあります。
 一方ですぐに治療が必要な症状としては(1)静脈瘤部分の皮膚発赤や熱感、痛み、しこり(2)皮膚の色素沈着や皮膚硬化、潰瘍形成などがあります。なお、下肢静脈瘤は深部静脈血栓症や肺梗塞(エコノミー症候群)の発症危険因子として挙げられるのですが、それほど頻度の高いものではないため、過度に気にする必要はありません。

経過観察から手術まで
治療は重症度で変わります

 下肢静脈瘤で当院を受診された場合、まずベッドサイドで静脈瘤のできている部位や重症度を診察します。
 その後に下肢静脈の超音波検査を行い、静脈瘤ができている原因を調べます。その後の治療方法としては4つあるのですが、1つ目は先述しました医療用の弾性ストッキングを着用し、外から圧迫する「弾性ストッキングによる圧迫療法」。むくみなどの症状が取れやすくまた静脈瘤の増大や増悪の予防になります。
 2つ目は静脈瘤に細い針を刺して硬化剤を注射し、静脈瘤をつぶしてしまう「硬化療法」。日帰り手術が可能で傷跡も残りにくいですが、治療した静脈に強い痛みやしこり、色素沈着を生じる可能性があること(血栓性静脈炎の併発)、硬化療法だけでは5~10年の間に再発する可能性が高いことが問題点として挙げられます。
 3つ目は静脈を完全に取り除いてしまう「手術療法(ストリッピング手術)」。小さな手術創が数ケ所残りますが、静脈瘤そのものが無くなるので、あらゆる静脈瘤に対応できる治療法と言えます。当院では全身麻酔または伝達麻酔で手術を行うため、1泊2日入院あるいは日帰り入院で手術を受けていただきます。術後1週間〜10日目に外来で抜糸などの処置を行い、治療終了となります。
 4つ目は静脈内にカテーテルを入れてレーザーやラジオ波で静脈瘤を内側から焼いてつぶしてしまう「下肢静脈瘤血管内焼灼術」。2011年に日本で保険適応となり当院でも2016年より積極的に導入している、体への負担が少なく手術創の小さい治療法です。この治療法は大腿部の静脈瘤には有効なのですが、下腿部の静脈瘤の場合はすぐ近くに神経が通っているため、熱で神経損傷をきたす危険が高く、慎重な適応が必要です。また屈曲の強い静脈にも向いていないなどいくつかの制限があります。当院ではこの血管焼灼術も全身麻酔または伝達麻酔で手術を行い、1泊2日入院あるいは日帰り入院となります。

▲下肢静脈瘤血管内焼灼術に用いるラジオ波(高周波)装置
▲ラジオ波(高周波)カテーテルを静脈内に挿入している

日頃から足の状態を確認し、
清潔を保ちましょう

 下肢静脈瘤は下肢の皮下を走行する静脈が拡張・蛇行する病気で、最初は血管が浮いて見えるだけでほとんど症状がありません。そのまま病気が進行することなく経過するケースもよくありますが、時に血栓性静脈炎を起こして皮膚発赤や熱感や痛みが出たり、静脈うっ滞性皮膚炎を起こして皮膚の色素沈着や硬化、潰瘍形成などの症状が出現し、日常生活に支障をきたす場合があります。
 下肢静脈瘤の発生・増悪を予防するためには、日頃から下肢に血液が溜まらないように気を付けることが大切です。長時間の立ち仕事、飛行機やバス旅行などでは時々足を高くして休息し、屈伸運動を行いましょう。また弾性ストッキングを着用するのも有効です。下肢の腫れに対しては就寝時にクッションや布団などを使って下肢を高くするのが有効です。また下肢が腫れている状態で傷ができると感染をきたして難治性となるので、日々下肢の清潔を保つことも大切です。

 血管内治療特集2 

閉塞性動脈硬化症について

動脈は全身に繋がっています。
重症化する前に普段から足のケアを行ないましょう

足元のしびれや痛み、
ストレスが原因で発症することも

 私たちの体のいたるところに血液が巡っていて、酸素や栄養を細胞に送っています。この血液の通り道である血管(下肢動脈)が動脈硬化によって硬く細くなったり(狭窄)、詰まったり(閉塞)すると血液の流れが悪くなり血行障害が起こります。この血行障害が手足などの末梢の血管に生じた状態を閉塞性動脈硬化症(ASO)と言います。ただしこの呼び名は国内だけで言われており、国際的には末梢動脈疾患(PAD)という言い方をしています。最近では下肢閉塞性動脈疾患(LEAD)とも呼ばれています。
60代以上の男性に多く、糖尿病や透析患者さんにも多く見られます。動脈硬化は老化の一種ですが、喫煙や高血圧、ストレスなどが原因で状態が悪化することがあります。また、膠原病など、血管炎を合併する患者さんでも慢性動脈閉塞を生じることがあります。
閉塞性動脈硬化症は主に足に症状が起こる病気ですが、たかが足の問題とあなどってはいけません。その裏には、冠動脈疾患や脳血管疾患など重大な全身血管障害が隠れている危険性があるからです。主な症状としては、(1)下肢の冷感、しびれ(2)歩くと下腿に痛みが出る(3)安静時でも痛みが出る(4)足部壊疽(えそ)の順に重症となります。動脈が細くなったり詰まったりする場合は動脈硬化が原因で、血管壁にコレステロールなどが沈着し血栓を形成して閉塞します。

動脈硬化は血管が詰まる場所で
さまざまな病気に変わります

 動脈硬化は全身の血管に起こり、様々な病気の原因となります。脳へ血液を届けている頸(けい)動脈や脳動脈といわれる血液を運ぶ血管が詰まると「脳梗塞」、心臓へ血液を運ぶ冠動脈が細く狭くなると「狭心症」、閉塞すると「心筋梗塞」になります。また胸部と腹部をつなぐ大動脈分枝の動脈硬化では「腎血管性高血圧症」などが起こります。そして、足への動脈に動脈硬化が進んで血流障害を起こす病気が「閉塞性動脈硬化症」になります。一般的には足が冷たかったり歩くと痛みが出たり、寝てる時に足の痛みを感じたりすると病気を疑うと思うのですが、糖尿病の患者さんの多くは足の感覚が無くなったり網膜症などで眼が見えにくく、足の状態が判別できないために病状が進行してしまいます。またこの病気の特徴として約7割の方が糖尿病を合併しているといわれています。糖尿病患者さんは神経障害起こす方が多いため足の痛みに気付くことが遅れ、重症化してから来院されることも多く年間1万人弱の方が切断をせざるを得ない状況になっています。

医療の発達によって進化を続ける
カテーテル治療

 治療法は、軽症の場合は薬物療法として血管拡張剤や抗凝固剤を使用します。また運動療法を行うことで側副血行路の発達を促進するとの報告もあります。ある程度虚血症状が進行するようになると血行再建手術を検討します。血行再建手術には、血栓内膜的摘除術やバイパス術などの外科的手術と血管内治療といったカテーテルを使った手術があります。現在は低侵襲ということで血管内治療が広く行われるようになりました。
当院の場合は、まず視触診で下肢の状態を診察します。 慢性動脈が疑われる場合は下肢と上肢の圧の比を測定(ABI)し、その上で血管エコーや造影CT、MRAなどの画像診断を行います。その結果、治療が必要な場合は入院していただき、血管造影、そのままカテーテルによる血管内治療を行うことが多いです。狭くなった動脈や詰まった場所をバルーンで膨らませるバルーン形成術やその後に金属のチューブのようなもの(STENT)で、血管がまた狭くならないように支えることもあります。最近では再狭窄予防のため薬剤があらかじめ塗られた薬剤溶出性STENTやバルーンにあらかじめ薬剤を塗っている薬剤コーティングバルーンなども開発されるなど、医療機器の進歩が目覚ましく治療成績も向上しています。

▲足の血管の動脈硬化によって足への血流が悪くなり、足に栄養や酸素を十分に送ることができずさまざまな障害が表れます。場合によっては指が黒く壊死してしまうこともあります。

足のケアが動脈硬化の
予防に繋がります

 閉塞性動脈硬化症の予防には、何といっても動脈硬化の予防が必須です。血糖や高血圧のコントロール、禁煙、足の痛みの出ない範囲での運動をお薦めしています。
 上述したようにこの病気の多くは糖尿病患者さんからの合併症が多いです。年間1万人近くの方が足切断をされています。また透析患者さんで足切断をされた方の1年後生存率は50%ほどだと言われています。そのような状況もあり20年ほど前からフットケアについて喚起されているのですが、まだまだ認知されていません。海外では足を専門的に診る足病医がいるのですが、日本には足病医がいないことも関連していると思います。足が痛かったり違和感を感じたりしても「足が痛いだけ」だと思われる方が多いかもしれませんが、動脈は全身に繋がっているということを思い出していただきたいです。足の痛みから胸や脳、心臓へも影響していくということを知ってもらい、日頃から足の清潔を心掛けてもらいたいと思います。

 血管内治療特集2 

下肢静脈エコーについて

少しの違和感も見逃さないように
隅々まで徹底して検査します

血栓の有無や静脈瘤の有無を
調べる下肢静脈エコー

 下肢静脈エコーは大きく分けると「血栓の有無を調べる検査」と「静脈瘤を調べる検査」があります。血栓は太ももの付け根やひざ裏にある静脈の血の流れが悪くなって血管中に血の塊ができることで、痛みや腫れが生じます。できた血栓は立ち上がったときや歩き始めたときに血液の流れにのって肺に達し、肺の血管を塞いでしまうため肺梗塞の原因となります。ちなみに飛行機や車内などの窮屈な座席で長時間同じ体勢を続けることで起きるエコノミークラス症候群もこの1つです。また静脈瘤は足の静脈の弁が正常に機能しなくなり、血液が逆流・うっ血を起こして足の血液循環が悪くなり、血管がこぶのような塊になる病気のことをいいます。静脈は身体中から戻ってきた血液を心臓に戻す血管です。足は心臓より下にあるため、血液が逆流して戻ることがあります。その逆流を防ぐため、静脈の血管内には門の役割をする静脈弁がついているのですが、弁の開閉が悪くなると静脈瘤の原因となります。
 医師が足の腫れや痛みがあるなどの症状を基に判断し、医師の指示のもと、私たち技師が検査を行います。血栓の場合も静脈瘤の場合も同じ機械を使用するのですが、血栓の場合は深部の静脈を調べ、静脈瘤の場合は表在の静脈を調べます。検査時間は15分~30分程度で、検査着に着替えてから、検査させていただきます。その後椅子に座っていただき、ゼリーを足のつけ根から足先まで塗り、部屋を暗くして静脈を圧迫しながら超音波検査機を使って、足全体を入念に調べていきます。エコー画像上で血栓は白く映ります。私たち技師は隅々まで検査し、些細な血栓も見逃さないように心掛けています。
 検査を受ける患者さんは不安を抱えておられるので、その不安を少しでも軽減できるように丁寧な対応を心掛けています。画像上、血栓なのか違うものであるのか判断に迷う場合もあります。そのような時は同僚や上司と画像や動画を見ながらWチェックを行い、患者さんのために徹底的に確認を行います。

 部署紹介 

治験管理室

病院と患者さんを繋ぎ、
未来の医療を紡ぐ

 治験管理室とは治験を行うための手順書の整備から契約関連業務、治験開始から終了までの書類の作成や管理、諸手続き全般を行っています。承認前の治療法にはなりますが、最新の治療を受けるチャンスがありますし、通常の治療よりも入念な診察や検査が行われます。また検査費や治療費が軽減されるメリットもあります。また自身の結果がその後、将来の医療の進展に繋がるという意義もあります。
 臨床試験や治験と聞くと少し不安を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、当院では安心して参加してもらえるように専任の治験コーディネーターがおり、細やかなケアを行いながら患者さんに寄り添い、院内の多職種との橋渡しを行いながら、院内に設置された治験審査委員会の厳格なルールの基、患者さんの不安や心配事を解消できるように努めています。

※治験とは…臨床試験(人を対象として薬や医療機器など、病気の予防・診断・治療に関わるいろいろな医療手段について、その有効性や安全性などを確認するために行われる試験のこと)の大きな枠組みの中の「くすりの候補」を用いて国の承認を得るための成績を集める臨床試験のこと。

YAMAGUCHI KAYO
山口 加代
治験管理室 室長
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