新須磨NEWS
2021年秋号
PDF ダウンロード脳卒中の治療特集
脳卒中の治療特集1
カテーテル治療とは?
脳卒中や脳血管障害の治療に有効的なカテーテル治療
「患者さん自身が幸せに思う治療」が理想的です
Q.カテーテル治療というのは、どのような患者さんに行なわれる治療でしょうか?
溝脇 カテーテル治療の対象は、脳卒中の患者さんで、具体的には、脳梗塞、破裂脳動脈瘤によるくも膜下出血などの急性期、脳動脈の狭窄や破裂していない脳動脈瘤などです。場合によっては投薬治療の方が適しているケースもありますので、適応は患者さんの病状や体質をしっかりと検査したうえで判断します。
ただし、カテーテル治療はすべての患者さんとはかぎりません。血管の蛇行が強いご高齢の方は、カテーテルの誘導が困難なケースがあります。また、治療の前には造影剤を用いた検査が必須ですので、造影剤に強いアレルギー反応を持つ患者さんも適応ではありません。
Q.カテーテル治療とは、どういった治療なのでしょうか?造影剤が必須の治療とのことですが、その点も少し詳しく教えてください。
溝脇 カテーテル治療とは、脳梗塞を引き起こす可能性のある頸部頸動脈狭窄症やくも膜下出血の原因になる可能性のある脳動脈瘤に有効だといわれる治療です。いずれもカテーテルという器具を使って行なう治療ですが、前者にはステント留置術、後者は、瘤内コイル塞栓術という治療を行ないます。メスで皮膚を切らず、身体への負担が少ない低侵襲治療です。
10年ほど前に急性期脳梗塞に対する血栓回収療法の有効性が示され、近年は技術が大きく発展し、治療適応の幅が拡がってきました 治療を行なう前には、カテーテルで検査をします。その場合に、造影剤を使用します。病変から離れている大腿動脈や腕の血管などからカテーテルを体内に取り込み、造影剤を注入してX線透視を行ないます。身体にカテーテルという異物を入れる検査ですので、可能性としてはゼロに近いものの、合併症のリスクが伴います。そのため、検査の適応についても、慎重に判断した上で患者さんが外来受診される際に、時間をかけて十分に説明させていただくようにしています。
Q.検査も治療もカテーテルを使用するのに、検査と治療は別の日に行なわれると聞いています。慎重に進められる印象ですが、それは何か理由があるのでしょうか?
溝脇 血管撮影は、最も多い情報を入手できる脳血管検査です。当然ながら緊急の場合は例外として、その貴重な情報(検査結果)を最大限治療に活かすことが良い治療につながります。まずカテーテルの検査を行なって、その結果を詳細に検討して、治療の適応を慎重に検討し、他の有効な治療法も含め、よりベストな手段を熟考します。
検査の結果によって、別の治療法が良いと判断することがあったり、他の医師にも意見を求めることがあります。
脳外科の手術治療は、大きく開頭手術とカテーテル治療の二つに分けられますが、それも含めて、より成功率の高い治療を選択していきます。
Q.カテーテル治療の長所はどのようなことでしょうか?
溝脇 カテーテル治療は、例えば、脳の深部にある病変については、有効であるケースが多い印象です。その理由は、脳の深部は開頭手術の際に深く狭い術野で手術を行なう必要があり、微小な血管神経が豊富な場所なので、そのような場所の病変に対してはカテーテル治療が有効だと思います。
開頭手術は全身麻酔で行ないますが、カテーテルは局所麻酔で行なうことができるため、急性期脳梗塞に代表されるような緊急性の高い病気に対しては、開頭手術よりも短時間で治療を完遂できて有効です。
Q.先生が脳外科医として、特にカテーテル治療を行なわれる上で大切にしておられることを教えていただけますか?
溝脇 カテーテル治療に限られることではありませんが、私自身が実行していることは、患者さんの命を最優先に考え、絶対に無理をしないということです。カテーテル治療が有効ではない病態の患者さんは少なからずいらっしゃいます。ですから、患者さんがカテーテル治療を希望されたとしても有効ではない、あるいは危険性が高いと判断すれば、無理をせずにカテーテル治療はしません。自分が治療に携わることで、患者さんに少しでも幸せになってほしいと心の底から願うからです。ただ、一番大事なのは、「患者さん自身が幸せだと感じること」だと思います。そう考えた場合、「自分とかかわること」こそが幸せだと偏った思いに固執しないよう、常日頃から心がけるように気をつけています。
Q.脳卒中や脳血管障害を予防したり、健康な生活を送るために、先生のお勧めのライフスタイルについてヒントをいただけますか?
溝脇 脳卒中や脳血管障害を引き起こす方の多くは高齢者で、それは、血管の老化現象、加齢性変化が引き金になっているケースが多いからです。
それらを予防するには、やはり日々の健康管理が重要だと思います。高血圧や糖尿病、高脂肪症といった慢性疾患の治療が適切に行なわれていない場合、脳卒中や脳血管障害を引き起こしやすくなります。飲酒については適度であれば影響は少ないですが、喫煙は要注意です。
一方、食生活については食事制限が必要でない限り、個人的には塩分が効いた料理や脂っこいメニューをたまに楽しむのも許容範囲かなと思っています。
また、運動に関しても適度に身体を動かすことは大事。私の患者さんで、70歳を超えて登山を始められた方がおられます。最初は友人に強引に誘われて嫌々参加されていたそうですが、段々と登山の魅力にひきこまれていって、登り続けている間に血圧が正常に戻り体重も減少。患者さんご自身が「体調が非常に良いです」と仰っていたことが印象に残っています。
もちろんこれはあくまでも一例で、個人によって結果は異なりますが、身体をしっかりと動かせる方、運動不足の方は無理のない範囲で少しずつ身体を動かしてみてはいかがでしょうか。
脳卒中の治療特集2
脳卒中リハビリテーション看護について
他職種との連携を主導しながら患者さんの看護を行う
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血の総称)は、寝たきりになる主な原因の病気。突然発病して命は助かったとしても、運動麻痺や感覚障害、高次脳機能障害といった後遺症を抱える場合も多く、その後の人生に影響する可能性が高い病気です。しかし、発病してすぐにリハビリテーションを開始すれば、機能回復が促進されて、その後の生活の質が改善される可能性が高いと言われています。例えば、発病直後は心身ともに状態が不安定なので、病状悪化を予防するために安静が優先されることも多くあります。しかし、安静にする時間が長ければ長いほど、障害のない健康な部分が同時に弱ってしまうことも。
脳卒中リハビリテーション看護認定看護師とは、そのような患者さんの脳組織への影響に対する臨床判断を的確に行い、病態の重篤化を回避するための観察やケアを行います。またそれと同時に、退院後も生活を維持していけるように「活動の維持・促進」のために、早期からリハビリテーション看護を実践する仕事です。また発病直後だけでなく、病状が安定してきた回復期なども生活を再構築するための機能回復を支援。患者さんが普段の暮らしを取り戻すために、他職種と協働しながらチームの一員としてサポートします。
脳卒中患者さんのケアはもちろん、看護職者の見本になることも重要
脳卒中は再発しやすいという特徴があり、再発すると障害が重くなる場合がほとんど。再発予防へのアプローチも大切な役割です。
現在、新須磨病院には月に2度、入院中の脳卒中患者さんを訪問。対話を通じて患者さんに必要なことを考え、実践しています。例えば、退院後の生活に必要な情報を提供したり、嚥下障害のある患者さんには食事の様子を評価しながら、病棟看護師とともにケア内容を考えています。
そのほか、病棟看護師への指導や相談に対応し、専門学校の講師として教壇に立つこともあります。看護職者の見本になることも、私の重要な役割の一つです。
部署紹介
リハビリテーション科
脳疾患等に対して機能訓練を行い、日常動作の早期獲得をサポート
当院では主に脳血管障害や整形疾患、脊椎疾患、肺炎の患者さんに対して急性期治療と並行して機能訓練を実施しています。「理学療法士」「作業療法士」「言語聴覚士」が協力し、発症または術後間もない時期は呼吸・循環動態の安定化を図りながら早期離床に努め、移動手段や日常生活動作の獲得をサポートしています。
状態が安定した患者さんには、自宅退院または当院の地域包括ケア病棟やリハビリ専門の回復期病院で積極的な機能訓練に取り組めるよう、徐々に活動量を増やしていきます。退院後も通院リハビリを実施し、フォローアップを行っています。
〈理学療法〉
脳血管障害等の術後の立位・歩行障害に対して基本動作練習を行い、早期の歩行をサポートします。また、退院後の生活を見据えた指導や環境の整備も行います。
〈作業療法〉
身体・精神機能の低下により、食事や更衣などの日常生活動作、料理や洗濯といった家事動作が不自由となった方に対して、機能訓練や動作練習などを行います。
〈言語療法〉
脳血管障害の患者さんに対し、早期の摂食機能の自立をサポート。また、失語症や構音障害などの方に対しても、評価や訓練を通じて早期回復に努めています。
RYO YAMAKAWA
山川 亮 リハビリテーション科 科長