新須磨NEWS
2023年秋号
PDF ダウンロードこけるな危険!特集
新院長就任のご挨拶
20数年にわたり当院を陣頭指揮してこられた澤田勝寛先生の後任として、2023年10月より院⻑に就任することになり、その重責に⾝の引き締まる思いです。
当院は脳神経外科・整形外科を主軸とする専門病院のイメージを持たれている方もいらっしゃるかもしれませんが、実は内科系・外科系ともに多くの診療科を有する総合病院であり、遠方から患者さんが受診されるような専門・特殊診療のみならず、近隣の皆様が安心して受診できるような一般疾患に対する診療、さらに救急疾患の受け入れもおこなっています。多くの科にまたがるような複雑な病態に対しても診断から治療、フォローアップまでを可能な限り自院完結できるよう心掛け、地域総合病院としての責務を果たしたいと思っています。なお、2018年からは地域包括ケア病床を持つようになり、近くにお住いの患者様が自宅退院へ向けて体力回復する橋渡し役も担っています。
一般病床147床の中規模病院ではありますが、そのぶん各科間や各職種間で意思疎通ができ小回りが利きやすく、患者様へのきめ細やかな対応ができることが当院のセールスポイントだと自負しています。患者様やご家族の気持ちを第一に慮りながら、質の高い医療をスピーディーに提供できるよう職員一同努力させていただきますので、よろしくお願い申し上げます。
理事長のご挨拶
10月1日より辻義彦院長が就任し、私は理事長職に専念することにしました。
私は阪神淡路大震災の年の1995年(平成7年)11月に院長に就任し、丸28年が経過しました。その間に関連施設が7施設増え、医療・教育・介護に軸足をおいた13施設からなる慈恵会グループを形成するに至りました。また、2012年11月からは先代の跡を引きついで、医療法人社団慈恵会の理事長も兼務してきました。
近年、社会構造が大きく変化し、少子高齢化、人口減、コロナという疫病、多発する自然災害、そして戦争と、医療のみならず地球規模でも多難な時代をむかえています。この急激で大きな外部環境の変化に対応するため、理事長職に専念することが必要と判断したわけです。診療に関しましては、今までどおり外科医として週二回の外来を続ける予定です。
新須磨病院は慈恵会グループの「旗艦」であり、新須磨病院の発展なくして慈恵会グループの発展はないと思っています。その病院の舵取りを、私が最も信頼する医師である辻先生に委ねることにしました。辻先生は、長年にわたり副院長として私を支えてくれた優秀な外科医です。今後は診療のみならず、病院のリーダーとして活躍してくれると期待しています。
辻義彦院長率いる新須磨病院に、倍旧のご支援ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
運動不足や加齢によって衰えるのは、筋肉だけではなく骨も脆くなっていきます。しりもちやこけた時など、「こんなことで!?」と思う状況でも骨折は起こる可能性があります。「私は大丈夫」だと考えず、本誌で骨折の原因や予防を知ってください。
こけるな危険!特集1
骨折と骨粗鬆症について
自覚症状が無い「いつの間にか骨折」に要注意
骨粗鬆症とは、主に閉経や加齢が原因で起こる疾患で、骨の強度が弱くなり、わずかな衝撃でも骨折を起こしやすくなります。骨粗鬆症による脆弱性骨折の中で特に多い骨折は、椎体圧迫骨折です。椎体圧迫骨折とは背中や腰の骨が押しつぶされてしまう骨折で、日常生活の軽い動作でも発症することがあります。自覚症状がないこともあり、「いつの間にか骨折」と言われることもあります。強い腰痛や、変形をきたし、日常生活に支障をきたします。
また、歩行中に転倒することにより大腿骨近位部骨折(大腿骨頚部骨折や、大腿骨転子部骨折)にも注意が必要です。大腿骨骨折を起こすと歩行ができなくなり、長期臥床や手術が余儀なくされます。
骨は、破骨細胞により壊されては、骨芽細胞による骨が作られていきます。このバランスが崩れることにより骨粗鬆症となります。
一般人での40歳以上の骨粗鬆症の有病率は腰椎L2~L4(腰の骨の頭から2~4番目)で男性3.4%、女性19.2%、大腿骨頚部で男性12.4%、女性26.5%と報告されています。骨粗鬆症の年代別有病率を2005年の年齢別人口構成に当てはめると腰椎で診断した骨粗鬆症は約640万人、大腿骨頚部の患者数は1,070万人と推計されています。
定期的な骨密度測定を行い、
自身の骨密度を把握しておきましょう
骨粗鬆症の診断の第一歩は、骨密度の測定です。ガイドラインでは、腰椎と大腿骨近位部の両方で計測することが望ましいと言われています。2012年診断基準で、脆弱性骨折ありの場合、
1.椎体骨折または大腿骨近位部骨折あり。
2.その他の脆弱性骨折があり、骨密度がYAM(※1)の80%未満。
脆弱性骨折なしの場合、骨密度がYAMの70%以下、またはTスコア(※2)-2.5SD以下と定義されています。
65歳の女性、危険因子(過度のアルコール摂取、現在の喫煙、大腿骨近位部骨折の家族歴)を有する65歳未満の閉経後から周閉経期の女性、70歳以上の男性、危険因子を有する50歳以上70歳未満の男性においても骨密度測定が有効であると言われています。
上記の条件を満たす方は一度、骨密度をはかってみてはいかがでしょうか? 骨粗鬆症の治療を行い、脆弱性骨折を減らすことができるかもしれません。
(※1)「Young Adult Mean」の略で「若年成人平均値」を意味します。「対YAM(%YAM)」は、若年成人(20~44歳の健康な人)平均値を100としたときの現在の自分の骨量の割合を表した数値です。80%未満は要注意、70%以下まで減ると骨粗しょう症と判定されます。
(※2)Tスコア:若年成人の骨密度平均値からどのくらい隔たっているかを標準偏差として表現したもの。Tスコア-2.5SDとYAM70%はほぼ同じ。
こけるな危険!特集2
しりもちで背骨の骨折!? 圧迫骨折とは
「骨折かもしれない」と思ったら、すぐに受診を
骨粗鬆症性骨折の一つとして脊椎椎体骨折は最も頻度が高く、適切な治療が行われないと、どんどん骨はつぶれ、腰が曲がり、頑固な疼痛が持続し、中には遅発性の下肢麻痺が生じることもあり、かなりの苦痛をきたすことになります。60歳代では8~13%、70歳代は30~40%と年齢とともに増加していきます。
受傷機転としては、しりもちなど転倒によるものが多いですが、物を持ち上げた時、立ち上がり動作、前かがみになった時などの軽微なものや、「いつ骨折を起こしたのかわからない」といったことも珍しくないです。
症状としては、初期は急性腰背部痛が主なものですが、椎体圧潰(骨折した椎体がひどくつぶれてしまうこと)の進行により変形をきたしたり、後壁の骨折により、下肢麻痺が出現することもあります。よって、初期に適切な診断をし、適切な治療を行うことが必要となります。椎体骨折の診断法には、単純X線、CT、MRIなどがありますが、それぞれに限界があります。単純X線、CTでは椎体圧潰がみられないと骨折の有無を判定するのは困難であり、圧潰が見られても、新鮮骨折か、陳旧性骨折(時間が経過した骨折)かの判定は難しいです。新鮮骨折の診断をつけるためにはやはりMRIを撮影することが有用です。
骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療が
骨折の連鎖を防ぐ一番の近道です
治療の原則は安静と痛みのコントロールなどの保存的治療が中心となりますが、耐え難い痛みや、下肢麻痺を認める方には、手術を選択することもあります。
当院では、耐え難い痛みが持続する方には、経皮的後弯矯正術(BKP:Balloon Kyphoplasty、VBS:Vertebral Body Stenting)を行っています。原発性骨粗鬆症による1椎体の急性期脊椎圧迫骨折で、十分な保存加療よっても疼痛が改善されない患者さん、および多発性骨髄腫または転移性骨腫瘍による3椎体までの有痛性脊椎圧迫骨折で既存療法に奏功しない方が、適応になります。手術は全身麻酔ですが、背中に左右1本ずつの針を差し、椎体内にバルーンを膨らませ、その空間に骨セメントを注入します。約30分程度の手術となります。VBSではバルーンを膨らませる際にステントを拡張させ留置し、その中に骨セメントを注入します。
また、下肢麻痺まで出現した方には、下肢麻痺の原因となっている神経の圧迫を解除する必要があり、骨を削り神経症状の改善を期待します。しかし、骨をけずることにより、骨強度の低下は避けられないため、上下の骨にねじを入れて、固定を行う手術も行っています。
いずれの治療においても手術直後の成績は良好ですが、隣接椎体に新たな骨折をきたすことが、増えるという報告があり、このような骨折の連鎖を防ぐためには、骨粗鬆症の治療をしっかり行う必要があると考えます。
こけるな危険!特集3
こけて足の骨折!? 大腿骨頚部骨折とは
足のつけ根の骨折で、
歩行困難になることもあります
高齢になってくると、若い頃よりも骨が弱くなってしまいます。若い頃はつまづいても踏ん張ることが出来ますが、高齢者の場合は、踏ん張りがきかずに転んでしまって骨折ということがあります。そのような時によく起こる骨折が「大腿骨頚部骨折」と「大腿骨転子部骨折」です。両方とも足の付け根部分の骨折のことを指しますが、頚部骨折は関節包と呼ばれる股関節全体の表面を包む皮膜の中の骨折のことで、転子部骨折は関節包の外側の骨折になります。この部分を骨折すると痛みのために、大半の方が動くことや歩くことができなくなります。特に骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の方は骨が脆くなっているため、ちょっと足をひねっただけでも骨折する可能性があります。また骨粗鬆症は高齢の女性に起こりやすい疾患のため、「大腿骨頚部骨折」と「大腿骨転子部骨折」は高齢の女性に多く見られます。特に大腿骨頚部骨折の場合は骨折が治りにくく、場合によっては骨に血液が十分に送れなくなって骨の細胞が死に、大腿骨頭壊死と呼ばれる症状を引き起こすこともあります。対象的に大腿骨転子部骨折は比較的骨が引っ付きやすいです。
年齢や骨折の状況で
手術方法は変わります
当院では治療方法として、骨折の転位(ズレ)が少ない場合はピンを2〜3本挿入して骨折部の固定を行います。 高齢の患者さんの場合は、もう一度手術をすることに精神的にも体力的にも大変な部分があるため、ピンをそのまま入れて過ごされる方が多いです。チタン製ですので日常生活やCT、MRIなど、治療の際にも支障はありません。転位(ズレ)が大きい場合は人工の関節に付け換える人工骨頭置換術を行います。
寝たきりにならないためには
早期のリハビリが鍵
治療する上で最も大切なことは、患者さんが寝たきりにならないようにすることです。大腿骨頚部骨折が起きるとほぼ皆さん歩行困難になります。骨折手術によって歩行能力は少し低下する可能性があるため、筋力訓練などのリハビリが大切になります。また寝たきりになることを防ぐためにも、早期にリハビリを開始することが重要です。
大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折を予防するには、何より転倒しないことが重要です。日頃から杖や歩行器を使用したり、屋内に手すりがある場合は手すりを使って階段を上り下りすることが必要だと思います。また骨粗鬆症の改善のために、食事に気を付けたり骨粗鬆症の治療を行うことも大事だと思います。骨粗鬆症は自覚症状がないので、病院で骨密度を定期的に調べることも大切です。
高齢の方は普通に足を上げて歩いていると思っていても、すり足になっている場合があります。そのため、わずかな段差や平地などでもつまづいてしまい、転倒してしまいます。筋力や体のバランスが悪くなって来るので、適度な運動を心がけてご自⾝の⾝体のことをしっかり知ることが予防の第一歩だと思います。
こけるな危険!特集4
手をついて手首の骨折!? 橈骨位遠位端(とうこついえんいたん)骨折とは
閉経後の女性に多い
橈骨位遠位端骨折
橈骨位遠位端骨折とは、前腕にある橈骨(とうこつ)と尺骨の2つの骨のうち、橈骨が手首のところで骨折することを指します。この部分が骨折してしまうと手に力が入らず、手関節部の強い痛みや腫脹、場合によっては変形してしまうこともあります。この骨折は歩行中につまづいた時に、手のひらをついたり、自転車やバイクに乗っていて転んだ際に起きやすいです。特に閉経後の中年以降の女性は、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)で骨が脆くなっている方が多いため、簡単に折れてしまう傾向があります。もちろん若い人でも高所からの転落やバイクでの転倒などで、強いエネルギーが働いた際に骨折することがあります。ただ、若い人は骨の質が強いので、日常生活でつまづいたり、こけたりした程度ではなかなか折れないと思います。
画像診断を行い、
患者さんに合った治療を選択します
橈骨位遠位端骨折の治療法は、まずレントゲンやCT 検査などの画像診断を行います。骨の転位(ズレ)が小さい場合には、手指を牽引しながら、骨折部の整復を行って外固定(ギプス、ギプスシーネ固定)を行います。転位が大きな場合や、骨折部の粉砕が強い場合には手術加療を行います。全⾝麻酔下に骨折部を解剖学的に元の位置に整復して、プレートやスクリューで強固な固定を行います。 関節面の骨折があれば、2.7mmの関節鏡を用いて、関節面を観察しながら、より正確な整復も行っています。術後はギプスシーネ固定を行い、術後の疼痛や腫脹が改善すれば、徐々にリハビリテーションを開始します。若い方であれば骨がくっついた際にプレートの除去手術などを行う場合がありますが、橈骨位遠位端骨折になる対象の方が、中高年の方に多いこともあり、基本的に除去手術を行わないことが多いです。素材がチタンですので、そのままプレートが入っていてもCTやMRIなどの検査を受けることはできますので、抜釘は相談して行っています。
適度な運動やウォーキングで
骨密度の低下を防ぎましょう
術後は疼痛や腫脹が一時的に増大し、手関節が固くなりますので、術後はリハビリが必須です。ご高齢の患者さんが多いため、そのまま何もせずにじっとしていると指の関節の動きが悪くなったり、皮膚や筋肉の伸縮性が失われてしまうので、術後、痛みや腫れが治まってきたら早い段階で手指の運動を開始し、2〜3週間の外固定後に手関節の運動を開始しています。
橈骨位遠位端骨折は基本的に転倒による場合がほとんどですので、予防するには「転ばない」ことが大切です。 年を重ねてくると足腰の筋力やバランス感覚が衰えてきます。また、骨は刺激が無くなると細くなると言われており、適度な運動やウォーキングなどで骨に刺激を与えることが大事です。特に閉経後の中年以降の女性は骨粗鬆症のために骨が脆くなっているので、骨密度の評価や骨粗鬆症の治療が必要です。骨や関節、筋肉など、⾝体を動かす運動器の障害によって、移動機能が低下した状態(ロコモティブシンドローム)を予防するためにも、運動習慣を⾝に着けて健康寿命を延ばすように心がけましょう。
こけるな危険!特集5
骨と栄養について
骨の健康を守り骨折のリスクを減らすために出来ること
10代にピークを迎えた骨量は更年期には急降下!年齢を重ねると、食生活にも長年身についた癖や習慣があります。そこで「骨を育てる」ことを意識した食事に整え、骨折のリスクを減らしましょう!