新須磨NEWS
2021年夏号
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がん治療特集1
最先端技術 「ガンマ ナイフ」とは?
極めて安全性の高い頭部専用放射線治療
ガンマナイフ治療とは、頭部専用の放射線治療です。悪性腫瘍、良性腫瘍、脳血管の病気など、主に脳疾患の治療に使用します。ガンマナイフ治療とはMRI検査やCT検査を経て、照射治療を行います。ガンマナイフ装置から放射されるガンマ線を患部に集中的に当てることで、1度で病気を治し切ります。2~3㎜レベルの小さな疾患にも当てることができ、精度は非常に高いです。同じく放射線治療としてサイバーナイフもありますが、こちらは頭部を含む全身が治療対象で汎用性は高いのですが、こと頭部の治療に関しては精度・迅速性・効率性の点でガンマナイフの方が優れていると考えています。サイバーナイフでは初診で日帰り治療は不可能ですが、ガンマナイフであれば午前に初診・検査、午後に治療をして帰宅することもできます。
当院のガンマナイフ治療の約8割はがん治療、つまり脳転移したがん患者さんに使用しています。とはいえ、ガンマナイフ単体で完治することは難しく、本来のがん治療を行いつつ、ガンマナイフで補足する形になります。ちなみに、残りの約2割は、良性脳腫瘍や脳血管の病気などの治療で使用。これらはガンマナイフで完治を目指しています。
脳は粘膜や腺組織と違い細胞分裂をしないことから、放射線治療にとても適した箇所と言えます。絶えず新陳代謝を繰り返している粘膜や腺組織箇所には使いにくいですが、脳には一定量の放射線を当てても影響が出にくいのです。そういった理由から、ガンマナイフという頭部に特化した放射線治療が歴史的に古くから成立しているのです。リスクは限りなくゼロに近いため、安心してガンマナイフ治療を受けていただきたいと思います。
高精度のMRIで活かされるガンマナイフ
当院のガンマナイフ治療が優れている点は、実はMRI検査の診断技術の高さにあります。当院では近畿圏の中で早期から最新のMRIを導入していることもあり、ハイレベルな診断技術が備わっているため、撮影した画像が非常に鮮明です。ガンマナイフのようなデリケートな治療は、はっきりとした画像診断ができないとピンポイントで患部に放射線を当てることができません。つまり、MRIの技術が優れているからこそ、ガンマナイフの威力を最大限に活用できているのです。
この度、当院では新たなガンマナイフを導入することになりました。従来の機種では1回で放射線を当てていましたが、新規の機種を導入したことで、線量を分割して当てられる分割照射がスムースになりました。分割照射のメリットとしては、例えば境界がはっきりとしていない位置が確認しづらい疾患にも非常に当てやすくなります。今まで以上に精度が高まったことで、治療計画が素早く立てられるようになり、今後は患者さんからの信頼度がさらに高まっていくはずです。
ガンマナイフ治療で大切にしていることは、「治療で悪くしない」ことです。場合によっては効果が大したことがないと思われるかもしれませんが、少なくとも患者さんを傷つけない、悪くしないことが最優先。ガンマナイフは放射線を利用した外科手術と言われますが、手術よりも安全に治療することを第一に心掛けています。
ガンマナイフでよくあるご質問
Q. 治療当日はお風呂に入って、髪を洗えますか?
A. マスク固定の方は、帰宅後入浴洗髪されてもなんの影響もありません。フレーム固定の方は、後頭部と額に局所麻酔と金属ピンの跡があります。治療後4~5時間を経過していれば、清潔を保つためには洗髪をして乾燥させることが一番良いと考えます。
Q. ピンを抜いた所が痛くなったり、血が出たらどうすれば良いですか?
A. 痛みは、痛いポイントだけ冷やす(ティッシュで包んだ保冷剤などを使用)ことでかなり軽減されます。市販の鎮静剤を服用されても結構です。血が出る場合には、小さなガーゼ・ティッシュなどを当てて5~10分ほど軽く圧迫すれば通常は止血されます。
Q. 髪を染めるのはどのくらい経てばできますか?
A. マスク固定の方は何の影響もありません。フレーム固定の方は、1ヶ月程度は控えてください。
Q. 照射後、髪の毛が抜けてハゲたりしますか?
A. 病気ができた脳の中の場所によります。脳の表面に近いところの病気を治療するときには、その病気のすぐ外側の頭皮に数センチ程度の部分的な脱毛ができる可能性があります。通常、脱毛は生じません。頭全体の毛が薄くなることもありません。
Q. 照射当日に、車の運転をしてはいけないのはなぜですか?
A. 治療当日は普段とは違った緊張感を持った1日を過ごされることと思います。治療後にはなるべく安全に帰宅されて休まれることをお薦めします。脳の病気の種類によっては「てんかん」が起きやすい状態の方もいらっしゃいますので、治療当日のみならず普段から運転は注意が必要です。
Q. 治療は痛くないですか?
A. 放射線(ガンマ線)自体は痛みも熱さもありません。ピン固定の場合には、局所麻酔の注射の痛み程度はしばらくあります。歯科での処置と同等です。同じ姿勢をとり続けると腰が痛くなる方がいらっしゃいますので、その時には治療途中で何回か休憩を取っていただきます。
がん治療特集2
がんの温熱療法 ハイパーサーミア
熱に弱いがん細胞を弱体化させる温熱療法
当院ではがん治療の一つとして、2018年夏から高周波ハイパーサーミア治療機器(サーモトロン)を導入しています。このハイパーサーミア治療とは、がん細胞が熱に弱いという性質を利用し、高周波で身体の深部の温度を高めて、がん組織を弱体化、壊死させるという温熱療法です。
主ながん治療は、手術・抗がん剤・放射線の三つです。私も数年前まではその「三本柱」しか打つ手がないと思っていました。ところが、私が手術をした乳がんの患者さんが、肺転移をきたし、他院でハイパーサーミア治療を受けてから約10年間も元気に過ごされているのを目の当たりにし、その効果に驚いたのです。
そして、ハイパーサーミア治療を保険適用することにご尽力された京都府立医科大学内科元教授の近藤先生や、大阪大学医学部放射線科元教授の中村先生に色々教えていただいたことも、ハイパーサーミアを導入するうえでの力強い後押しとなりました。信頼する先生に話をうかがったことでハイパーサーミアについての認識を深めることができ、これは「新たながん治療」になると確信しました。
当院に足を運ばれるがん患者さんの多くが、他の臓器に転移しているステージⅣです。手術や抗がん剤、放射線などのがん治療でも改善が見られず途方に暮れ、他の病院から転院を余儀なくされた患者さんも少なくありません。ハイパーサーミア治療は、そういった患者さんの一筋の希望になると考えています。
ハイパーサーミアとの併用治療に大きな期待
ハイパーサーミア治療だけでがんが完治するわけではありませんが、他のがん治療と併用することで、治療の効果を高めるという特性を持っています。
ある患者さんはステージⅣの肺がんを患い、他の病院で打つ手がなくなり来院されました。その方は当院でハイパーサーミア治療を受けつつ、他の病院で免疫療法を受け、ご自分では水素吸入を続けられた結果、がんの陰影が消えてしまいました。ハイパーサーミアと他の治療との関係性など、まだ解明できていないこともありますが、その相乗効果に期待せずにはいられません。
ハイパーサーミア治療は、副作用が少ないこともメリットの一つです。脱毛や嘔吐など、抗がん剤のような副作用はほとんどありません。しいてあげれば、患部に熱を送るために電極盤で身体を挟むので、軽いやけどを起こす可能性があります。
がん治療では消失するか小さくならないと効果がないと判断されますが、大きくならなければ、がんの成長を抑制しているともいえます。ハイパーサーミアによってがんが小さくなり、手術が可能になったケースもあります。前述の乳がんが肺転移した患者さんは、ハイパーサーミア治療だけで約10年、がんがあまり進行しなかったのです。それだけでも大きな驚きでした。たとえ余生をがんと共存することになったとしても効果があることが分かりました。
私はハイパーサーミアを導入したこの3年間で、がんに対する見方が大きく変わりました。先ほども申し上げたように、手術や抗がん剤や放射線治療が、これ以上、あるいは最初から無理と判断され、突き放されて、希望を絶たれたがん患者さんが数多く来院されます。中には余命が1ヶ月か2か月と宣告された方もおられます。ある程度の覚悟はされていても、一筋の希望を見いだしたい、信じたいと願っている患者さんばかりです。私は、できるだけ時間をかけて話を聞き、「手術、抗がん剤、放射線の治療がダメでも諦めたらアカン。みんなで一緒に粘ろう」と伝えています。患者さんとそのご家族に向き合い、心身ともに支え続けるのが本当の緩和ケアと思っています。
がん治療特集3
緩和ケアについて
「緩和ケア=終末期の手立て」ではない
「緩和ケア」と聞くと、治療にすべての手を尽くした終末期の医療とイメージしている方も多いのではないでしょうか。しかし現在では、必ずしも「緩和ケア=終末期の手立て」というわけではありません。患者さんの身体的・精神的な苦痛を少しでも和らげることだけでなく、その意向を汲んで生活を整えることや、患者さんだけでなくご家族にも寄り添うことなども緩和ケアの一つです。また、今後どのように自分らしく過ごしていくのか、どのように病気と向き合っていくのかという意思決定のフェーズに患者さんをシフトさせていくこともまた緩和ケアだと思っています。
当院の緩和ケアは主に重度のがん患者が対象になりますが、病院によっては抗がん剤治療をされている患者さんやがん宣告をされた時点から緩和ケアを受けるケースもあります。ただ、がん宣告をされたばかりの患者さんの多くが、今後のことを冷静に考えることが難しいです。患者さんによってがんを受け入れるタイミングは異なりますし、その人にとってどのタイミングで緩和ケアを取り入れることが適切なのかを見極める判断は本当に難しく、慎重に行わなければなりません。つまり、緩和ケアがどの段階で必要なのかという基準は存在しないのです。
緩和ケアは患者さんとの信頼関係が不可欠
当院では緩和ケアの専門病棟があるわけではなく、それぞれ異なる部署・病棟の医師や看護師を中心に緩和ケアチームを結成しています。業務としては、患者さんの身体的・精神的なケアがメイン。場合によっては、患者さんのご家族のケアをすることもあります。そのほか、患者さんの情報をチーム外スタッフと共有したり、悩み事や困り事をヒアリングし、提案や助言をしたりすることもあります。またチームには薬剤師や理学療法士も所属しているため、お薬やリハビリの面からアプローチすることも可能です。
緩和ケアで最も大切にしていることは、患者さんが「生きていて良かった」と思ってもらえるようなサポートをすること。そのためにも、患者さんとの信頼関係を築くことは不可欠です。患者さん一人ひとりの声に耳を傾け、寄り添いながら、距離を縮めていくことを大切にし、一人ひとりとの会話や出来事、しぐさなどはほぼ記憶しています。また、当院には地域連携相談室があり、そこで訪問看護や訪問介護のスタッフを交えて患者さんのご希望に沿う方法を模索することも少なくありません。こうした連携の網が各所に張り巡らせているのが当院の強みです。患者さんに悔いのない人生を送ってもらえるよう、スタッフ同士で連携し、知恵を振り絞り、全力でサポートします。
当院では現在、乳房形成術の導入に向けて準備を進めています。乳房形成術とは、乳がんで切除した乳房を再建する手術のこと。単純に物理的な問題だけでなく、乳房を切除した喪失感を少しでも和らげ、心をケアし、日常生活を過ごしやすくするという効果もあります。2013年から乳房の再建手術が保険適用になったこともあり、「以前は治療できなかったので再建したい」「乳房の再建をもう一度やり直したい」という患者さんの声も日増しに多くなっています。
再建手術の種類は、主に2タイプあります。まず一つは、自分の脂肪や筋肉を利用した、自家組織による再建。主に腹部や背中の脂肪や筋肉を移植してつくり直す方法になります。自身の体に傷跡は増えてしまいますが、血が通う健常な組織でつくり直し、メンテナンスの必要性が少ないこともメリットと言えます。もう一つは、インプラント(人工物)による再建。定期的なメンテナンスは必要になりますが、基本的に胸以外の傷跡は増えず、手術時間もさほど長くありません。自家組織とインプラントの選択は、医師が医学的な見地からアドバイスしますが、基本的に患者さんのご希望を尊重します。
乳房形成術は非常にデリケートな治療です。まずは患者さんの想いに寄り添うことが最優先。手術までに何度も面談の機会を設け、医師と患者さんの間で思いを共有することが非常に重要な治療なのです。マンパワーの問題などもあり、関西圏で乳房形成術を受けられる病院は限られています。スタッフの人員確保、協力体制を速やかに実現し、万全の状態で治療に臨めるよう取り組んでいきます。
※現在、インプラントを使用した再建手術については保険適用となるための申請準備をしております。
部署紹介
臨床工学科
患者さんの治療から医療機器の管理まで
多岐にわたる業務をこなす部署
臨床工学科の業務範囲は、透析室等での治療、手術室等での機器の操作、医療機器の運用や管理など多岐にわたります。
主な業務は、血液浄化、医療機器管理、手術時の機械操作、高気圧酸素治療、ハイパーサーミア操作がベースとなります。
中でもメインとなるのが、人工透析(透析療法)を含む血液浄化業務です。人工透析とは、腎臓の機能が低下した方に対して、人工腎臓を用いて体内の血液をろ過して水分や老廃物をコントロールする方法です。
透析室では、治療の為入院が必要な患者さんの透析を、各科からの依頼を受け施行しています。
我々が関わっている主な疾患は、閉塞性動脈硬化症の下肢の血管や傷、脳疾患、その他内科疾患です。また、透析が必要になった患者さんの透析導入も行っています。
特に重要な業務の一つに、医療機器管理業務があります。当院には様々な医療機器があり、臨床工学科で登録管理している台数は千台に及びます。医療機器の操作方法の伝授や各所への振り分け、修理や点検、新たな医療機器の導入や提案なども行っています。新たに導入された医療機器の使用方法など、日々の勉強も欠かせません。
心身ともにハードな業務ですが、患者さんが安心安全な治療を受けられるよう、チーム一丸となって取り組んでいます。
NAKAJIMA KATSUHARU
中島 克治
臨床工学科 技士長