日本二分脊椎・水頭症研究振興財団

 

財団ニュースB&C 6-5(12月9日発行号)より
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 偶数月9日発行予定





最近の褥創の手当の考え方


神戸市看護大学 小児看護学 教授
蝦名 美智子


 「褥創の手当」に関する考え方が、この10年間で大きく変わりました。みなさんは水泡ができたとき、それをつぶさないように気をつけている方が、早くきれいに治ることを経験的にご存知と思います。この水泡の研究の結果、傷(褥創を含む)を消毒したり乾燥させることはよくないことが解ってきました。本日はそのことをお話します。 
 まず最初に、「水泡」を想像してみましょう。水泡は、皮膚によって外界と遮断され、その中に水がたまっており、細菌が侵入できない状態にあります。一方、傷が治るためには、創縁の上皮細胞が遊離し、遊走し、増殖することが大切ですし、最悪なことは細菌感染をおこすことです。これらのことから、水泡は細菌の侵入をシャットアウトし、上皮細胞が自由に増殖する環境を自ら造りだした結果なのです。つまり、よい褥創の手当とは、この水泡状態に似た環境をいかにうまく作り出すか、ということなのです。太陽に曝したり、乾燥させたりすることは、現在は禁忌なのです。 
 ところで、私たちは傷をみると「まず、消毒する」ことをおこなっていませんか。この消毒も、最近の研究によって、無効か有害であることが分かってきました。イソジンのような消毒薬は傷のない皮膚の消毒(手術前など)には有効ですが、開放創においては、創傷内の壊死組織を蛋白分解する酵素の働きを抑制したり、細菌感染に対抗する白血球の仲間(好中球、単球)を障害することがわかっています。現在では開放創の細菌対策は生理食塩水による洗浄やゲーベンクリームの使用の方が効果的であると言われています。抗生物質入りの軟膏も短期間の使用とし、耐性菌をつくらないようにすることが大切です。
 
 では、褥創の手当のポイントをお話します。まず、第一に全身の状態を点検します。大きな褥創があって、そこから滲出液が出ている場合、体内の栄養が外に漏れていると考えます。ですから、痩せてきていないか、そして特に蛋白質、鉄分、ビタミンCに富んだ食事をとるように心がけます。また、褥創部分に圧迫がないか、褥創周辺に圧迫がないかを点検します。以前は円座をつくって褥創部分の除圧を心がけましたが、円座は褥創の周囲を圧迫し、結果的に中心にある褥創の血流を阻害することが解ってきました。もし、使用するならば、体圧分散型のクッションを使いましょう。
 次に細菌感染の対策です。褥創から膿がでたり、悪臭がしたり、滲出液が多い場合は感染を疑います。どの程度の感染かを判断する方法として、オキシフルによる見分け方がありますが、今回は割愛します。感染がひどい場合のみ、一次的に消毒薬を使用しますが、消毒剤を使用後、数分後には生理食塩水で洗浄し、消毒薬が残留しないようにします。理由は先に述べました。入浴、シャワー、足を洗うなどは褥創の表面の細菌数を減らす最も良い方法です。これらができない場合、生理食塩水で洗浄します。生理食塩水は、ヤカンに水1lと9gの塩をいれ煮沸し、冷ますことで簡単につくることができます。創部周囲の水分は拭きとりますが、褥創内部は拭きません。もうお分かりと思いますが、感染対策は殺菌することではなく、細菌の数を減らすことなのです。
 最後に、皮膚保護材について述べます。皮膚保護材には数種類ありますが、人工的な「水泡状態」をつくり、細胞増殖に必要な成分を補強し、余分な滲出液を吸収するという点において、共通した基本的機能をもっています。創部にガーゼを当てた場合、1日に数回の交換が必要ですが、皮膚保護材を使用すると、数日に1回の手間で済みますし、感染抑制の上からも是非使用したいのですが、問題は、費用です。診療報酬上の問題をやりくりしながら、担当の医師に相談しながら、皮膚保護材をつかい続ける工夫が必要です。
 紙面の都合で、ポイントだけを述べましたが、日頃のケアにお役にたてれば幸いです。


参考文献
(1)平成9年度厚生省老人保健推進等補助金「老人保健福祉に関する調査研究事業」による研究報告書:褥創の予防・治療指針策定のための研究報告書1998-9.(班長: 宮地良樹)
(2)JOHN O.KUCAN,MD, MARTIN C.ROBSON, MD, JOHN P.HEGGERS,PhD and FRANCIS KO.,BS(ASCP):Comparison of Silver Sulfadiazine,Povidone-Iodine and Physiologic Saline in the Treatment of Chronic Pressure Uicers,Journal of American Geriatrics Society,232-235,May 1981.

 

 

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